Wednesday, January 27, 2021

第一章 ロンドン(1)

 ロシアや中国の滞在客向けにリノベしたロビーでは、金でふちどられ磨きぬかれた大きな鏡がSloane Avenue沿いの緑や、黒光りするロンドンタクシーを映し出している。

 世界中を席巻した新型コロナウイルスが収束して半年。第二次大戦と同じレベルの8500万人が死亡後、にわかに感染者数が減少して絶滅した。

あれはいったい何だったのか。ノーベル賞級の科学者たちがいくら研究を重ねても、さっぱりわからない。トランプ政権下の国務省が主張したように、中国・武漢の研究所から出てきた人工ウイルスだったのか。新型コロナウイルスの発生メカニズムがわからないのと同じように、終息メカニズムもわからずじまいだ。

ともあれ2025年1月、WHOは新型コロナの撲滅を宣言。外出自粛でストレスが最高潮に達していた世界中の人々は旅行にどっと繰り出し、フライトや宿泊費は高騰した。羽田・ホノルル間のエコノミークラスが往復100万円の値をつけて話題を呼び、航空会社やホテルの株価は底値から10倍に急上昇。そんな中、格安価格で起死回生に打って出たダイヤモンドプリンセス号の甲板は、まさに波に乗ってFIRE(Financial Independence, Retire Early)に移行した投資家でごった返していた。

 そうしたポスト・コロナバブルが一段落した半年後。ネコはロンドン地下鉄のサウスケンジントン駅から地上に出て、重いスーツケースを転がしSloane Avenueにあるサービスアパートに到着した。金ぴかのロビーでは中国語、ロシア語、ほかに何語かわからないが、とにかく英語以外の言葉が飛び交っている。 

アエロフロートの格安ビジネスクラスチケットを入手し、モスクワ経由でロンドン・ヒースロー空港に降り立った時には、10年ぶりの渡英にいろいろな思いが錯綜した。丸天井の小さな地下鉄車両がトンネルを抜け、グレーのどんよりとした雲の下に広がり緑したたるサッカー場、レンガの家々が目に飛び込んでくる。

新型コロナの変異株で壊滅的な被害を受けても、この風景は時が止まったようにまったく変わらない。

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