おおっ、これはまさにTOEIC Listening & Readingのパート2に出てきたセリフではないか。5年前に登場したTOEICの新しいナレーターの声にそっくりだ。典型的な中流階級のイギリス英語ではなく、感情がこもらず早口なので聞き取りにくい。TOEIC満点を100回近く取っている有名講師のYouTuberもそう語っていた。
新しいイギリス人女性が加わったことで、TOEICのイギリス人ナレーターは2人に増えた。そのほかオーストラリア人2人、アメリカ人1人、カナダ人1人という構成になっている。この結果、アメリカ英語の比重は低くなった。日本の大学入試もかつてのセンター試験ではアメリカ人のナレーターのみだったが、2021年の大学入学共通テストには新たにイギリス人と日本人のナレーターが登場した。
つまり、アメリカ英語の発音だけに慣れている受験者が不利になったことを意味している。世界的に米国の威信が薄れてきたことの表れだろう。
ブッシュ息子政権によるイラク侵攻、京都議定書離脱などで米国の国際的な評判は落ちた。オバマ大統領による歴史的な広島訪問、パリ協定への加入で挽回したものの、トランプ大統領が激しい揺り戻しを行った。インテリ、外国人、女性、科学者、環境活動家から総スカンを食らい、世界中の嘲笑の対象になった。それでも国内には根強いトランプ支持者がいた。退任直前には議会攻撃の映像が流れ、トランプ大統領がどうのと言うよりも、先進国であるはずの国がこのような事態になることが問題だと思われた。
"Cash, debit or credit?"
思わず我に返り、クレジットカードを小さな機械に差し込む。通信音が流れ、支払は完了した。振り返ると客は途切れていたので、レジの女性に話しかけてみた。
「あなたの声を聞いたことがあるんだけど。。TOEICのナレーターをやっていませんか?」
彼女は驚いた表情を見せ、"Yes"と答えた。イングランド南部の小さな村の出身で、女優を目指してロンドンの演劇学校に通っていると言う。生計を立てるためにアルバイトをかけ持ちし、TOEICのナレーションもその一つだ。
「もう少し感情を込めてゆっくり話してもらえると助かるんだけど。。」と言うと、アハハと笑った。わざとこういう話し方をしているという。スマートスピーカーが普及する中、受験者にはAIのような発音に慣れてもらうという本部の方針だと。「そのうちAIに仕事を奪われるかもしれないけど、その頃には女優として成功していたい」
"Good luck!"と言うと、彼女は"Thank you"とにっこり笑った。
アパートの部屋に戻り、サラダのパックを開く。再びテレビをつけると砂嵐になっている。あれ、さっきは見られたのだが。。フロントに電話をすると「すぐに作業員が行きます」と言う。ところが15分、30分経っても現れない。
ずっと前にニューヨークのホテルに泊まった時のことを思い出す。連れの友達と一緒に見るためにDVDを持ってきた。デスクに置いてある案内書を読むと「DVDプレーヤーを貸し出します」とある。フロントに電話して頼んだが、どれだけ待っても音沙汰がない。
「DVDプレーヤーは本当に来るんだろうねえ?」とため息をつくと、友達は言った。"In theory..."
思わず大笑いした。日本では全てがうまく行くが、世界的にみればそれはかなり珍しい。日常生活がスムーズに行かない点で、イギリスとアメリカはいい勝負だが、いくつかの面ではイギリスの惜敗かもしれない。
あまり世話をかけるのも申し訳ないが、最後の手段としてアパートの管理人室に電話する。午後6時半を過ぎているので、スタッフはもう帰宅しただろうか。着信音が鳴り、"Letting Office"と元気のいい声が答える。
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