Thursday, January 28, 2021

第一章 ロンドン(2)

 車窓はやがて高層ビルが入り混じり、再びトンネルに入る。地下鉄ではあるが地上も走り、この場面でいつも丸ノ内線を思い出す。

 だが丸ノ内線とは違って、向かい席の乗客と目が合いそうなほど車両は小さく、天井も低い。だからこそTubeなのだ。この点ではむしろ大江戸線を彷彿とさせる。

 ビジネス客の多くは市内に出るのに特急ヒースロー・エキスプレスを使うが、ネコにとって終点のパディントン駅は中途半端だ。地下鉄ピカデリー線は各駅停車で乗車時間は長く1時間近くかかることもあるが、空港ターミナルからアパートの最寄駅サウスケンジントンまで直通で乗り換えの手間もない。

 SuicaやPASMOに相当するOysterカードを最後に使ったのは10年前だが、当時の残金を使うことができた。ちなみに香港の地下鉄はOctopusカードと言うが、七つの海を支配した大英帝国の象徴だろうか。だとしたら、香港の中国化を推し進める中共としてはOctopusという名前を変えるかもしれない。だが共産党の色だからと言って、Red Cardということもなかろう。

 バイデン政権でも中共関係者の米国入国は厳しく、まさにRed Cardの状態が続いている。中国との深い関係が指摘されるバイデン一族だが、じつは中国エリートの間ではWeChatでトランプの功績を称える匿名コラムが拡散していた。米国が世界中で行ってきたことは、いわゆる人権のためではなく米国支配のためである。トランプは米国資本主義の醜い本質を暴き出すという、極めて珍しいプロパガンダを行ったのだ、と。

 つらつらと考えていると、いつの間にか地下鉄はサウスケンジントン駅に到着した。向こう半年分の荷物が入ったスーツケースを持ち上げると、ずっしりとした重たさが、もはや彼がいないことをネコに痛感させた。

 ここで言う「彼」は代名詞のHeであり、boyfriendではない。イギリスを含むヨーロッパでは日本やアメリカと比べて、法律婚とパートナーの差がかなり小さい。それと同じように、friendとboyfriendの違いも相当あいまいである。

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