いろいろな疑問や妄想がネコの頭をうずまき、コロナはステージを歩きつつ話しつづける。
「こうして私は信賞必罰をモットーに活動したのです。私の話は以上ですが、なにかご質問はありますか?」
会場では拍手する人もいれば、茫然とした人もいる。矢継ぎ早に多くの手が上がり、コロナが質問者を指名する。スタッフがマイクを持って小走りに向かう。
「あなたはどこで生まれたんですか? 中国・武漢の研究所ですか?」
「はい、そうです。両親はコーモリで、私の兄はSARSです。ただ"助産師"がたくさんいたからこそ、私はこの世に生まれることができました」
つづいて質問は殺到したが、時間の都合で打ち切られた。コロナは舞台のそでに退出し、会場の扉が開いて聴衆がざわざわと出て行く。ネコは席を立ちあがり、通路で列に並ぶ。
ふと見覚えのある顔と目が合う。
「・・・アル!」
世界140カ国以上から留学生が集まるLSEで、数少ないイギリス人クラスメートのアルだった。彼は中国国営の巨大企業にヘッドハントされ、香港に住んでいる。この講演のために一時帰国したのだろうか。 よく見ると彼の席はLSE同窓生の枠ではなく、特別に用意された関係者席だった。
「ネコ、ひさしぶり! なつかしいね。その辺でお茶に行かない?」
Peacock Theaterから広い道を渡ると、Pret A Mangerがある。サンドイッチやサラダを各店舗でつくる高級ファーストフード店だ。コロナ禍で多くの店舗を閉鎖したが、ここの店は残っていた。
扉を押して店に入り、チョコ入りのクロワッサンとカプチーノを注文する。
「本当に久しぶりだね。すごくうれしい。僕が払うからね」と言うアルには、とても仕事がうまく行っている雰囲気が漂う。ネコは「ありがとう」とお言葉に甘え、空席を探してアルを手招きする。
「ぜんぜん変わらないね! いまは一時帰国してるんだ?」。猫舌のネコはカプチーノの泡を息でふきながら聞く。
「そう、というか出張だけどね。いろいろと忙しくて。。」
中国国営の巨大企業の社長室で働くアルは、そりゃ、いろいろと忙しいのだろう。
「ところでコロナは"助産師"がたくさんいたって言ってたけど、誰なんだろうと思ったよ」。長年ジャーナリストとして働いていたネコは、さりげない会話から情報を聞き出す質問の仕方を心得ている。
「まあね。。。あれだけ世界中を席巻した強力なウイルスを、ひとつの国の科学者だけで開発できたと思う?」
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