コロナが収束して初めてのイベントは、新型コロナウイルス本人が登場することになった。動物愛護の考え方が進んでいる欧州では、ペットや野生動物のみならず、魚類やカニなどの甲殻類、さらには細菌やウイルスといった微生物の気持ちを理解し、権利を保護する動きが出てきていた。
アニマルウエルフェアをとりわけ重んじるドイツ政府の研究費によって、ウイルスをドイツ人男性の平均身長である180センチに拡大し、ウイルスが自らの考えを言葉で表現する技術が開発された。
ドイツ大使館とLSEの共催で行われた講演会は、世界中の注目を浴びた。通常の講演会は一般公開されることもあるが、今回は長蛇の列が予想されたため、聴衆はLSE関係者に限定。それでも出席希望者が多数のため抽選となり、チケットを手にできたのは20人に1人だった。コロナでアルバイト先を失った学生は、ひそかに当選したチケットを転売。ダフ屋で3万ポンド(430万円)の値をつけて、滞納していた授業料を一括払いした。
会場となったPeacock Theatreのドアが開き、当選チケットのQRコードをスマホでかざした聴衆が次々と入場していく。
ネコは同窓生枠にダメ元で応募したところ、今朝起きてスマホを見ると当選したとのメッセージが届いていた。昨晩キャンセルが出て急遽出席できることになったという。スマホで受信したEチケットには席が指定され、たどっていくと前から3番目の中央だった。かなりいい席である。
満席の会場で司会の教授が式次第を説明したあと、駐英ドイツ大使が挨拶をする。
「コロナ禍によって世界中で8500万人もの尊い命が奪われ、世界恐慌を上回る経済被害を被りました。なぜこのような事態になったのか。新型コロナウイルスの意図は何だったのか」
「ヒトラーは最後に自殺したため、ホロコーストの本当の理由はわかりません。米国のオバマ政権はウサマ・ビン・ラディンを殺害し、9-11の真実はわからずじまいです」
「こうした反省に立ち、ドイツ政府はコロナを捕獲してAIによって擬人化し、本人の考えを聞く技術を開発しました。本日はコロナ本人に講演をしてもらいます。ではコロナさん、どうぞ」
金髪で青い目、ドイツの田舎町にいそうな男性がステージに登場。聴衆は困惑した表情を浮かべながらも、割れんばかりの拍手でコロナを迎えた。
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