Tuesday, February 2, 2021

第一章 ロンドン(7)

 理想と現実。本音と建前。米国ではそのギャップが際立っている。マイケル・ムーアはそうした状況をありありと伝えるドキュメンタリーを製作してきた。

 本質に迫るという点では、英国のコメディーも秀逸である。Monty PythonのMinistry of Silly Walksという作品がある。おかしな歩き方をすることをミッションとする官庁という設定で、職員はどれだけおかしいかを競い合い、おかしさの度合いで評価される。

 テレビの修理は終わり、作業員がリモコンをつけて直ったことを確かめた。夜7時になりチャンネルを回していくと、2024年のパリオリンピックを検証する特集番組をやっている。東京オリンピックは2032年に持ち越されたものの、昨年はようやくコロナが下火になってきていたので、パリでは規模を縮小して無観客で行われた。

 最も注目を浴びたのは女子のバレーボール、ビーチバレー、バスケットボールである。米国選手の全員が2メートル前後の長身で、ほとんどがニューハーフだった。国際オリンピック委員会(IOC)は2004年から性別変更選手の参加を認めていたが、多くの国では対応する国内法がなかったため性転換したスポーツ選手はあまりいなかった。

 ところが米国ではバイデン大統領が就任早々、性転換した元男性が女子用のトイレや更衣室に入り、女子スポーツに参加できるようにした大統領令に署名した。バイデン政権で性転換者のスポーツ参加が進んだ結果、米国では女性のスポーツ選手は少なくなっていった。

 伝統的な女の園への「男性進出」はスポーツ以外にも幅広い分野で進んだ。ヒラリー・ローダム・クリントン氏の出身校で女子大のウエルズリー大学でも、性転換した元男子の入学を許可している。

 自由と平等を標榜する米国だが、そもそも論として自由と平等はどのようにすれば両立するのだろうか。性転換者の自由を認めた結果として、出生時の性別という点では男女平等から遠のいている。また人権という観点では、女性として生まれた人間がスポーツで活躍する権利を奪われ、多くの女性が元男性とトイレや更衣室を共有するという気持ち悪さを味わう。

 バイデン氏はいわばMinistry of Silly Walksのトップであり、スタッフはこうした政策をどれだけ着実に実行できるかで評価される。ただ、彼がスピーチで「まともさを取り戻す」と強調したように、トランプ時代もまともではなかった。それを言えば、外食や外出の自粛を求めながら、8人で会食した菅総理も思い出す。

 つらつらと考えているうちに眠くなり、歯を磨いてテレビを消し、ベッドにもぐりこむ。どっと眠気が押し寄せたところへ、電気スタンドの近くに置いたスマホの着信音が一回鳴る。おそらく何かメッセージが届いたのだろう。緊急の用事なら電話が来るはずなので、とりあえずそのまま放置する。

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